日々の生活のなかでちょっと気になる出来事やニュースを、2人の女性医師が医療や健康の面から解説するコラム「ちょっとだけ医見手帖」。今回は、自身も1児の母である森田麻里子医師が、「同時接種」について「医見」します。
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赤ちゃんが受ける定期の予防接種は、0歳児のうちだけで6種類もあり、13本の注射が必要です。この大量の予防接種をスムーズに行い、できるだけ早く免疫をつけてあげるために必要なのが同時接種、つまり同時に複数のワクチンを打つことです。同時接種の安全性は確かめられていますが、なんとなく不安に思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。私も、ワクチンの接種間隔や副反応についてきちんと調べてはじめて、心の底から納得できました。今回はその内容を解説したいと思います。
今の日本では、同時接種は認められていますが、同時接種をしない場合は、不活化ワクチンの後は中6日以上、生ワクチンの後は中27日以上の間隔を空けることになっています。なぜ1日空けたらダメなのに同時なら良いのか、疑問に思いませんか? 実は、この決まりの全てに医学的根拠があるわけではないのです。
確かに同じ種類のワクチンに関しては、効率的に免疫をつけるため、適正な接種間隔が定められています。また、異なる種類の注射の生ワクチン同士なら、間隔を中27日以上空ける必要があります。これは、最初に接種したワクチンの影響で、後から接種したワクチンの免疫がつかなくなるのを防ぐためです。
生ワクチンの予防接種をすると、ウイルスの増殖を抑えるインターフェロンという物質が体の中で作られるのですが、このインターフェロンの効果で、続いて接種した生ワクチンの効果が弱まってしまうことが知られています。1965年にアメリカの研究者によって発表された研究では、131人の子どもを、天然痘ワクチンだけを摂取するグループと、麻疹ワクチンを接種した後に間隔をあけて天然痘ワクチンを接種するグループで免疫のつき具合を比較しています。麻疹ワクチンの接種後9~10日後に血中のインターフェロン濃度がピークに達し、この時期に天然痘ワクチンを接種しても、ほとんどの子どもで免疫がつかなかったことがわかりました。
中27日以上という数字の根拠としては、2003年に発表されたアメリカの研究があります。ある2つの医療機関で、1995年から99年のカルテを調べたところ、MMR(麻しん・風しん・おたふく)ワクチンを接種してから28日以内に水痘ワクチンを打った子どもでは、ワクチンを接種したにもかかわらず水痘を発症するリスクが3.1倍になっていたのです。