そこで、私の経験を踏まえ、カジノ事業の特殊性も勘案したうえで、カジノ業者が今回の法案を前提にして、資産家年金生活者の金を最も効率的に吸い上げようとするのかを考えてみた。
カジノ事業者は、顧客の行動をカメラやチップのかけ方の記録などで詳細に把握できる。この客はたくさん使う客だ―すなわち依存症予備軍だ―と狙いを定めたら、カジノ業者が繰り出す最初の一手が、預託金勧誘だ。
そのカギとなるのが、マイナンバーだ。カジノ法案では、マイナンバーでの入場チェックが義務付けられる。逆に言えば、カジノ業者は何もしなくても全ての顧客のマイナンバーを入手できる。また、カジノ事業者は、法律で、貸金業者や銀行などが運営するメンバー外には利用できないはずの個人信用情報機関へのアクセスが認められる。法案では、顧客の個人信用情報をチェックして貸すように義務付けられてもいるのだ。彼らは、顧客が申し込む時点で、必ず、自宅が持ち家かどうかを確認する。そこで、持ち家だとわかれば、すぐにその時価評価がいくらか調べるだろう。そのうえで、信用情報機関で顧客の情報を調べて、どれくらいまで貸せるかその上限を設定する。
ところが、この問題で一番重要な預託金の額やその何倍まで貸していいのかという上限倍率規制の内容が法律には書かれていない。ある程度の富裕層に限定するという政府の言葉を文字通り受け止めれば、例えば、預託金の額は最低500万円などという額になるかもしれない。カジノのために500万円預けられるのは相当な富裕層に限られるから安全だと政府は言うだろう。しかし、それは嘘だ。
カジノ業者は、預託金を預ける顧客にVIPカードを渡して、無料宿泊や無料食事クーポンなどの数々の特典を用意する。預託金は使う義務はないのだから、とりあえず預ければ、特典が利用できてお得ですよという誘い文句につられて、「使わなければいいんだから」ということで預ける人はかなり出て来るはずだ。そのうえで、貸付倍率の上限は、2倍なのか、10倍なのか、それ以上なのか、それが法案には書いていない。一つの目安となるのが、FX取引の証拠金規制だ。これによれば、現在預託する証拠金の25倍まで為替取引できることになっている。500万円の25倍だと1億2500万円だが、それは少し大きすぎる響きがある。これを仮に10倍だとすれば、5000万円が貸付上限だということになる。
もちろん、貸しても取りはぐれれば何の意味もない。そこで、狙うのは家持ち層だ。仮に顧客が時価5000万円の家を持ち、貯金が3000万円あるとなれば、5000万円貸しても十分に回収できる。こうした層に預託金を預けさせればまずは大成功だ。