今年も各地で地方予選が始まり、夢の甲子園出場へ向け球児たちが熱い戦いを続けているが、懐かしい高校野球のニュースも求める方も少なくない。こうした要望にお応えすべく、「思い出甲子園 真夏の高校野球B級ニュース事件簿」(日刊スポーツ出版)の著者であるライターの久保田龍雄氏に、過去に夏の選手権大会の予選で起こった“B級ニュース”を振り返ってもらった。今回は「驚異的高打率の打者編」だ。
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広島カープで通算2119安打を記録した前田智徳は、熊本工時代も3年夏の県大会で驚異の“安打製造機”ぶりを発揮している。
初戦(2回戦)の八代戦は3打数無安打、3回戦の大矢野戦は3打数1安打と出足はいまひとつだったが、いずれの試合でも打点を記録。そして、準々決勝以降、前田のバットは打ち出の小づちのように安打を量産する。準々決勝の熊本西戦では4打数4安打1打点、準決勝の熊本一工戦でも4打数3安打2打点とプロ注目打者の本領を発揮した。
圧巻だったのは、東海大二(現東海大熊本星翔)との決勝戦。新チーム以来1勝2敗と分の悪い相手だけに、前田は「夏に勝てば帳消し」と必勝を期していた。
0対1とリードされた4回、3番・早野公俊が左中間三塁打を放った直後の1死三塁で打席に入った4番・前田は、左腕・中尾篤孝から右越えに起死回生の逆転2ランを放つ。
通常なら敬遠でもおかしくないケース。相手ベンチも「敬遠してもいい」と指示していた。だが、「ストライク入れんかい!」と挑発する前田に対し、中尾が「なんやとおっ!」と渾身の内角高め直球で真っ向勝負した話は、今も“伝説”として語り継がれている。
その球を「待ってました!」とばかりにジャストミートし、両翼99メートルの藤崎台球場の右翼席中段へ。一塁ベースを回った前田は、歓喜の表情で右手を高々と突き上げた。
「内角に的を絞っていました。あんな大事なところで打てるなんて」(前田)
この一発がモノを言って、熊本工が3対2で勝ち、2年連続の甲子園出場を決めた。この試合でも4打数3安打2打点と大当たりの前田は5試合通算で18打数11安打7打点1本塁打の打率6割1分1厘という驚異的な成績を残している。