ふにゃっと弱めると、手先にこもっていた思いともども散り散りになり、消えてしまう。「これで握手はおしまいか」と手を放そうとする相手の手を慌てて握り直しても、途切れた思いがよみがえるものではない。

 では、どんなやり方をすればいいか。

 答えは、握手の元々の呼び名にあった。

 Shake hands

「揺さぶる」。握手とは、複数形の「hands」、つまりお互いの手を、「揺さぶる」ことなのだ。

  ◇
 地面に手ごろなロープが放り出されていると想像してほしい。一方の端をつかみ、上下に波うたせるのが「shake」だ。「山」は向こう側に移動していく。

 つないだ2人の手をロープに見立て、波打たせてやると、こちらの思いは手先を通じて相手へと流れ込む。それはあなたに向けたものですと、目で相手に伝える。

 ブルン、ブルン。ブルン、ブルン。

 二拍子、数秒間の儀式だ。

  ◇
 6月12日、ある2人の握手に世界中が注目した。

 米国のトランプ大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の2人だ。

 朝鮮半島の核廃棄をめぐる歴史的な会談を終えた2人は、画面の両端から姿を見せ、真ん中で相まみえる。

 さあ、どんな握手をするのか。

 動画の再生速度を4分の1に遅らせて確かめた。

 どこからどこまでが1回か、数えづらいが、36回は手を揺らしたようにみえた。上下ではなく、手前に引いたり押し込んだり。引っ張り合いにも見える。

 また、握手をするのは政治家とは限らない。

 その1週間後の19日。サッカー・ワールドカップのコロンビア戦で勝ち越し点をあげた大迫勇也をめぐり、高校時代の握手が話題になった。

 発信源は試合後、SNSで広まったテレビの映像だ。2009年の全国高校サッカー選手権で、大迫のチームに敗れた相手校の監督が「おれ、握手してもらったぞ」と自分の高校の選手たちに話していた。

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