このように、計画が決定される前から実現困難と言われるくらいだから、議論の過程で、厳しい歳出抑制がテーマになるのは自然の流れだ。各紙報道によれば、歳出抑制のために、今後3年間の社会保障費について、75歳以上の人口の伸びが鈍化する見通しを反映して、従来以上にその伸びを抑制する方向だという。
現行の財政健全化計画では、高齢化に伴う社会保障の自然増の分が毎年6000億円以上あると想定している。このため、それを16~18年度の間、毎年1000億円程度抑えて3年で1.5兆円の増加に抑えることにしていた。
それにならえば、新計画の19~21年度の目安として、社会保障費を1.5兆円の増加にとどめるということになるのだが、財務省は、さらなる切り込みを狙っているという。実は、20~21年度に75歳を迎える人口は、第2次世界大戦の影響で出生数が少なかったことでかなり減少する。これを勘案すると、20~21年度の社会保障費の伸びは、16~18年度の想定より年1000億円程度減る可能性があるというのだ。このため、数値目標は明示しないものの、事実上、その程度の抑制を目指そうということのようである。
こうした方針は、21日に開く経済財政諮問会議で、民間議員の提言として提示され、6月にまとめる予定の新しい財政健全化計画に反映されることになるという。
ここで、読者の皆さんは、大きな違和感を抱くのではないだろうか。それは、「社会保障費の見直しを歳出抑制策の中心」とするということばかりが連日大きく報じられるのに対して、公共事業費や防衛費などの他の政策的経費削減の議論がまったく報じられないのはなぜかということだ。
国の借金返済のための費用などを除いて、政策を実施するために必要な経費である政策的経費のうち、社会保障費は約44%を占めているから、ここに切り込むことは当然のことだ。社会保障費であっても、無駄な経費の支出は許されない。
しかし、だからと言って防衛費など他の経費が聖域になるというのは理屈が通らない。「どこかおかしい」、そう感じるのは、自然なことではないだろうか。