夫は
「子どもが生まれてからずっとセックスレスですけど、だからと言って他の人でとは思いませんし、妻が嫌がるのを無理強いしているわけではないんです。でも、私だって性欲がないわけじゃないので、せめてタッチするぐらいは許してもらえないと。これでは何のための夫婦かわからないですよ。近づくだけで嫌な顔をされて」
と悲しそうに訴えます。優華さんは
「夫の言うこともわからないわけではないですが……、なんかもう、そういう話を聞くだけで、嫌悪感というか、もうやめてーって感じになるんです。でも、子どももいるし、少なくともそれ以外では、生活費はちゃんと入れてくれるし、悪い人ではないので今は離婚とかは考えていないですが……」
かみ合ってるような、かみ合っていないような2人のお話しですが、要するに、夫は優華さんと性的な部分でも仲良くしたくて、優華さんは(少なくとも今は)夫と性的な関係でありたくない、という希望です。
もう少しお話を聞いていくと、夫の中には、タッチができる→1回できることは複数回できる→日常的にタッチできるのは親密な関係→セックスする関係になる、という仮説があるように思えます。確かに、出会った2人が親密になっていくプロセスではそうだと思います。しかし、優華さん夫妻のケースでもその仮説が成り立つのか、というのは大きな問題です。
優華さんは、夫に近づいてこられるだけでドキドキする、と言ってましたが、ドキドキで思い出す有名な心理学の実験があります。デートの理論などにもよく引用される、「つり橋の実験」です。若い独身男性たちにちょっとした恐怖を感じるほど高いつり橋を渡ってもらい、橋の真ん中で若い女性が突然アンケートを求めて話しかけるというような設定の実験です。つり橋の真ん中で足場が揺れることからくる軽い恐怖(=ドキドキ)を相手の女性に対する恋愛感情(ドキドキ)と誤認する、という仮説を示した実験です。このことから、デートにはドキドキするところを入れるのがいいというのが「定説」になりました。