1982年の日本シリーズ第4戦で決勝本塁打を放った中日・谷沢健一。この試合でタイに持ち込んだ中日だったが…  (c)朝日新聞社
1982年の日本シリーズ第4戦で決勝本塁打を放った中日・谷沢健一。この試合でタイに持ち込んだ中日だったが…  (c)朝日新聞社

 各地でオープン戦も真っ盛りだが、懐かしいプロ野球のニュースも求める方も少なくない。こうした要望にお応えすべく、「プロ野球B級ニュース事件簿」シリーズ(日刊スポーツ出版)の著者であるライターの久保田龍雄氏に、80~90年代の“B級ニュース”を振り返ってもらった。今回は「あれさえなければ編」だ。

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 1982年の日本シリーズ、西武vs中日は、第1、2戦と連敗した中日が第3戦から連勝。2勝2敗のタイで第5戦(西武)を迎えた。

 勢いに乗る中日は、3回表に先制のチャンスをつかむ。2死から1番・田尾安志がショートへの内野安打と石毛宏典の悪送球で一気に二塁へ。次打者・平野謙の当たりもファースト・田淵幸一の右を抜ける長打コースとなった。

 ところが、次の瞬間、両軍ナインとスタンドを埋めた2万6千人のファンは信じられないような光景を目の当たりにすることになる。平野の打球は、なんとライン際で打球の行方を見守っていた村田康一一塁塁審の右足に当たると、バウンドを大きく変えて、セカンド・山崎裕之の前に転がっていくではないか。

 公認野球規則6.08(d)によれば、内野手(投手を除く)をいったん通過するか、または野手(投手を含む)に触れたフェアボールがフェア地域で審判員に当たった場合は、石ころに当たってイレギュラーバウンドするのと同じ解釈になるため、ボールインプレーになる。

 長打で1点失ってもおかしくないケースが一転二ゴロに早変わりしてしまったのだから、西武にとっては超ラッキー。山崎はすかさずサード・スティーブに送球する。
このとき二塁走者の田尾は、平野の打球が抜けたと思い込み、すでに三塁を回っていたが、高木守道三塁コーチの「ストップ!」の大声でアクシデントに気づき、慌ててUターン。しかし、時すでに遅く、間一髪タッチアウトになった。先制のチャンスがまさかのスリーアウトチェンジ。「あれじゃ戻ってもホームを衝いてもアウト。本当についてない」のぼやきも出た(平野の記録は二塁内野安打)。

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久保田龍雄

久保田龍雄

久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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罪深き「石ころ」