関節の周囲の筋肉がねん挫した状態で全治5日の診断を受けた門田は、その後8試合を欠場。主砲離脱で苦戦を強いられたチームは、最終的に優勝した近鉄にゲーム差なしのわずか1厘差の2位でV逸。ハイタッチの代償はあまりにも大きかった。

 1996年、巨人の松井秀喜は中日・山崎武司にわずか1本差の38本で本塁打王を逃したが、「ドームの天井さえなければ…」と今でも語り草になっているのが、9月3日の横浜戦(東京ドーム)での大飛球。6回に右翼席中段に突き刺さる35号同点ソロを放った松井は、2対2で迎えた8回にも斎藤隆から右翼上空にホームラン性の大飛球を打ち上げた。

 ところが、決勝弾になると思われた打球は、45度の角度を描きながら高さ約60メートルのドームの天井をドスンと直撃すると、角度を変えてグラウンドにストーンと落下。ライト・ブラッグスのグラブにスッポリと収まった。

 東京ドームの特別ルールによりインプレーとして処理され、記録は右飛。長嶋茂雄監督が「天井に当たって捕った打球は、(ワンバウンドで)ゴロと同じじゃないか」と抗議したが、高田繁コーチにルールを説明され、自らの勘違いに気づくと、慌てて審判に謝罪するひと幕も。武上四郎コーチも「天井がなきゃ入ってた」と悔しがることしきりだった。

 当の松井は「蚊取り線香に仕留められた蚊みたいなもんだった。ヒューッと落ちてきやがって」と苦笑いしつつも、「今日は1本損した? そんな小さいこと言わないよ」と余裕の表情だった。

 ところが、結果的にこの“幻弾”が災いし、わずか1本差で本塁打王の初タイトルを逃してしまったのだから、けっして「小さいこと」ではなかったのである。

●プロフィール
久保田龍雄
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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