各地でオープン戦も真っ盛りだが、懐かしいプロ野球のニュースも求める方も少なくない。こうした要望にお応えすべく、「プロ野球B級ニュース事件簿」シリーズ(日刊スポーツ出版)の著者であるライターの久保田龍雄氏に、80~90年代の“B級ニュース”を振り返ってもらった。今回は「口は災いの元編」だ。
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捕手のささやき戦術といえば、即座に野村克也の名前が浮かぶが、達川光男(広島)も「今日飲みに行くん?」「初球はど真ん中にストレートが来る」などとささやいては、打者の思考をかく乱していた。
そんな数々のエピソードの中でも、最もよく知られているのが、大杉勝男に対する“石ころ”発言だ。
1983年4月27日のヤクルト戦(神宮)、開幕後、初めてスタメン出場をはたし、4番に入った大杉は、初回の第1打席で津田恒美から先制3ランを放った。
そして、事件が起きたのは、3対0で迎えた3回の2打席目だった。
前の打席で本塁打を打たれたばかりの津田は、明らかにショックが尾を引き、コントロールが定まらない。
そこで達川は「こいつぁー石ころじゃけえ、安心して投げてきんさい」と津田に声をかけた。「もしヒットを打たれても、(石ころで)盗塁はないから安心しろ」という意味だ。
達川自身は、ホームランだけは絶対ダメという状況だったため、「くさいコースをついて歩かせろ」の意味で、「(歩かせても)石ころだ、大丈夫」と津田に伝えたとしているが(ブログ「達川光男のものがちがいます」)、真相はいずれにせよ、大杉を「石ころとは何だ!」と激怒させた事実に変わりはない。
怒りをパワーに変えた大杉は、津田の内角球をジャストミートし、左越えに2打席連続本塁打。そして、ダイヤモンドを一周して本塁に戻ってくると、呆然と立ち尽くしている達川の後頭部を右こぶしでポカリと殴った。「先輩に対して石ころよばわりとは失礼だ!」というわけだ。
しかし、試合は大杉の2発で4点を先行されたにもかかわらず、終わってみれば、6対6の引き分け。達川も“石ころ事件”がきっかけで全国区の人気者になったことを考えると、必ずしも“災い”ばかりではなかったようで……?