しかし、山田の成績低下は、山田一人に原因があるわけではない。本来、中軸を任せられる川端慎吾、雄平、畠山和洋の三人が故障で戦力にならず、山田の役割も打順も固定することができなかったのだ。7月下旬以降はほとんど4番での出場だったが、後ろの5番を打つことが多かったリベロの成績は打率.215、6本塁打、21打点と、とても中軸を任せられるレベルではなかった。後ろを打つ打者がこれだけ弱ければ、相手投手は山田に対しては四球もやむなしという姿勢で、ボール球で勝負できる。そして、その攻めに対して山田が余裕を持って対応できるだけの状態になかったということが不振に輪をかけることになったのではないだろうか。

 そんな山田だが、低迷するチームにあって自身の調子も上がらない中でも143試合フルイニング出場を果たしたことは立派の一言である。二塁手としての守備に関しては前年よりも失策数は増えたものの、刺殺数、補殺数はともにリーグトップの数字を残している。そのことはきっと今年に繋がるはずである。

 今年はWBCもなく、侍ジャパンの強化試合にも招集されなかったことで、シーズンに向けて十分に準備する期間がある。昨年に比べてしっかりコンディションを整えられることは大きい。また、新しく就任した宮本慎也ヘッドコーチの厳しい指導も、山田にとってプラスとなるはずだ。シーズンを戦い抜ける下半身の強さを取り戻すことができれば、昨年の二の舞になることは考えづらい。

 そして、さらに大きいのはチーム事情である。故障で離脱していた川端、雄平、畠山に加えて、青木宣親が大リーグ(MLB)から復帰したことで打線は確実に厚みを増している。また、バレンティンが春先からしっかり仕上げていることも頼もしい。彼らがしっかりと本来の力を発揮することができれば、他球団も山田だけ厳しくマークするわけにはいかなくなるだろう。

 ちなみに、NPBではトリプルスリーを複数回達成したのは山田だけだが、MLBではバリー・ボンズ(パイレーツ、ジャイアンツ)が3度達成している。今年で26歳という山田の年齢を考えると、この記録を塗り替える可能性も十分にあるだろう。屈辱のシーズンからのV字回復へ。鮮やかな復活劇に期待したい。(文・西尾典文)

●プロフィール
西尾典文
1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。

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