私が経験した例で言えば、適切な抗がん剤を選ぶための検査を実施するかどうか。検査すれば、わずかとはいえ、細かながん細胞が体内に散らばるおそれがあるという。逆に検査せずに治療を始める手もあるが、適切な抗がん剤を選べているかはわからない。さあ、どちらにしますか――といった具合だ。
想像してほしい。安倍晋三首相が、アベノミクスの一定のリスクも認め、それ以外の経済政策もありうると語る姿を。そして野党も独自の政策を掲げ、同じように利点とリスクを有権者に語りかける光景を。
政党同士が「それでもなお、こうした理由でこの道を選ぶべきだと信じる」と訴えるかたちで論戦を繰り広げるようになれば、有権者はぐっと判断しやすくなる。
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がんと政治と言えば、第1次安倍改造内閣で官房長官を務めた与謝野馨さんだ。二つの世界を生き、4種類のがんと闘った体験を著書「全身がん政治家」に書いた。日本の財政状況をがんになぞらえ、持論である財政再建の必要性を「待ったなし」と訴えている。
「私が付き合い続けてきたがんという病気と同じで、はじめに正確な病状を告知し、それに必要な治療法を示し、患者の納得を得たうえで進めていかなければなりません。たとえ苦くても、効く薬は飲んでもらわなければならないし、難しい手術でも受けてもらわなければならない」