歯を失う原因は、むし歯だと考えている人は多いでしょう。しかし日本人が歯を抜かなければならなくなる原因のトップは、歯周病です。日本歯周病学会と日本臨床歯周病学会の共著として発刊した書籍『日本人はこうして歯を失っていく 専門医が教える歯周病の怖さと正しい治し方』(朝日新聞出版)から、歯周病の正しい知識を紹介します。

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 抜歯は、これまで何十年も一緒に過ごしてきた歯との「永遠の別れ」です。むし歯になって穴が開いたり、治療で削ったり、神経を抜いたりしても、「自分の歯がある」というのはその人にとって大きな安心感だったはず。その歯を抜かなければならないと告げられて、ショックを受けない患者さんはいません。「抜きたくない」「なんとか抜かなくて済む方法はないか」と懇願されることも多いですし、受け入れられないままで他の歯科医院を受診してセカンドオピニオンを求める患者さんもたくさんいます。

■1本歯を失うだけでは済まされない

 歯を失えば容貌が変わりますし、抜けたままでは十分に噛めないので、入れ歯などで補う必要も出てきます。

 厚生労働省が6年に1回実施している「歯科疾患実態調査(2011年)」では、何らかの義歯(ブリッジ・部分入れ歯・総入れ歯)を使っている人の割合は、45~54歳ですでに約35%、55~64歳では60%を突破、後期高齢者の75歳以上になると90%近くに達しています。

 むし歯は住まいで言えばウワモノ部分の問題ですから、雨漏りや壁の崩れなどが生じても、その部分だけ補修すれば済みます。一方、歯周病は、歯を支えている歯し槽そう骨こつなどの「地盤部分」がもろくなって地盤沈下を起こしている状態で、治療で地盤を強化しなければウワモノまで崩れてしまいます。さらに同じ環境にさらされている周囲の地盤も弱っているので、他の歯にまで被害が拡大し、最終的にはすべての歯を失うことになりかねません。

 「75歳以上の3分の1以上は総入れ歯になっている」という現実の背景には、歯周病が大きく関与しているのです。

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