かくいう私も、「100%全力の自分」を発揮することが仕事だと思っている節があります。「完璧とまではいかなくても全力を出してほしい」と、他人に対して求めてしまうことがあります。

 だからこそ、ルールとして決めたんです。

「遅刻・早退・バックレはOKです。完璧なんて人はいないし、完璧じゃない自分を持ち寄ってみんなで仕事をしよう」

 それが本当は言いたいことであり、ルールを決めたときの思いです。ただし、すべての『不登校新聞』のすべて仕事が「遅刻・早退・バックレOK」ではありません。「遅刻しても大丈夫」という範囲にかぎってルールを適用しています。

■採用から約10年で部員に変化も

 こんなルールを決めてから10年ほどで、気づいたことがあります。

 もしかして「完璧さ」や「全力」を求める社会は、多くの人から活躍の場を奪っているのではないか、と。

「完璧な人」は好ましいですが「完璧さ」は求められると苦しいですし、「全力」になれない人が排除されやすくもなります。

 すくなくとも、私が関わる『不登校新聞』では「あなたは完璧じゃなくていい」と伝え始めてから関わる人が増え、「本人のやれる範囲」を広げた人も多くいました。さらに、苦しい思いをしてきた(している)人だからこそ持っている視点や疑問が、読者の心を打つ記事を生み出すことにもなります。

 本人が「いまやれる範囲」をとりあえず設定し、周囲が環境を整備する。そういうやり方しか不登校・ひきこもりの場では通用しないのも事実です。もしかしすると、会社員でもいろいろな事情でフルタイムでは働けない、毎日は出勤できないという人たちも同じかもしれません。

 今回、「遅刻・早退・バックレOK」というルールが波紋を呼んだのは、「完璧さ」や「全力」に窮屈さを感じる人が多かったからではないでしょうか。さらに言えば「完璧じゃない自分をみんなで持ち寄る」、そんな仕事のあり方が求められているのかもしれません。

 ということで、どうでしょう。厚生労働省さんや「働き方改革」に取り組む行政のみなさま、ボランティアと“仕事”の違いはあるかもしれませんが、うちの会議を見に来てみませんか。遅刻・早退・バックレOKですよ。(文/石井思昂)

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石井志昂

石井志昂

石井志昂(いしい・しこう)/1982年、東京都町田市出身。中学校受験を機に学校生活があわなくなり、教員や校則、いじめなどを理由に中学2年生から不登校。同年、フリースクール「東京シューレ」へ入会。19歳からNPO法人全国不登校新聞社が発行する『不登校新聞』のスタッフとなり、2006年から編集長。これまで、不登校の子どもや若者、識者など400人以上に取材してきた

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