別の専門家は「安倍さんは、問題を理解していないのでは」と辛口だ。
前出の池本さんはこう言う。
「いまのニーズは多少負担額が上がったとしても、信頼できる保育士がいる安全な園に、きちんと入れるようにしてほしいということ。それを先延ばしにしたまま、幼児教育の無償化をさらに進める必要があるでしょうか。子育て支援というキーワードが選挙や憲法改正など別の目的のために利用されてしまったのではと感じます。ほかの政党の公約をみても、立憲民主党や公明党が保育士の処遇改善を掲げているぐらいで、保育に関して将来ビジョンを持って積極的に訴える政党も議員もいないのがとても残念です」
自民党のマニフェストには待機児童対策について<「子育て安心プラン」を前倒しし、2020年度までに、32万人分の保育の受け皿整備を進めます>とある。だが、そもそも「子育て安心プラン」は安倍首相が民主党から政権を奪って約4カ月後の2013年4月、5年後までに保育所の定員を40万人分増やすとした「待機児童ゼロ」の目標が実現できず、3年先延ばしにしていたものだ。保育士不足や財源の確保など課題が山積している中で、具体的にどう進めていくのか不明な点は多い。
福祉や保育がなかなか話題に上らない今回の選挙では、政党や各候補者の待機児童に関する考えは有権者から見えにくい。大事なのは選挙後だとジャーナリスで東京都市大学客員教授の猪熊弘子さんは指摘する。
「保育についての問題は、どうしても野党の女性議員が中心になることが多く、活動する親たちも政治的に分断されてしまう傾向があります。ただ、待機児童を含めた保育の問題は超党派で解決していくべき国難です。実際に法律や制度を変え、問題を解決していくためには与野党を超えた議員の動きが不可欠です。選挙後に政治の中枢に立つ議員たちにどう働きかけ、保育や子育てに詳しい議員を増やしていけるかも大事なのです」