さまざまな思いを抱く人々が行き交う空港や駅。バックパッカーの神様とも呼ばれる、旅行作家・下川裕治氏が、世界の空港や駅を通して見た国と人と時代。下川版「世界の空港・駅から」。第36回はカナダのトロント・ピアソン国際空港から。
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アメリカとイギリスとイスラエル……。この3カ国の入国審査はうっとうしい。なにかと訊いてくるからだ。パスポートに捺された入国スタンプの数が多くなると、それに比例して質問も増える。
トロント・ピアソン国際空港。ここからシカゴに向かった。トランプ大統領になって以来、なにかと物議を醸すアメリカの入国審査は、この空港で行われた。
最近のアメリアのイミグレーションには、APCと呼ばれる機械が置かれるようになってきた。これはパスポートをスキャンし、写真を撮り……といった作業を自分で行う機械だ。これで入国審査にかかる時間は大幅に短くなったというのだが。
しかし僕が選んだ機械はすぐにエラーが出てしまい、審査ブースへ行くようにと指示がでてしまった。通常ならレシートが出、それを手に審査ブースに向かう。
審査はあっけなく終わった。パスポートを手に、搭乗口に向かおうとすると、通路にいたおばさん職員に声をかけられた。
「こういう用紙は?」
とAPCから出てくるはずの用紙を示した。その機械が壊れていたから審査ブースへ行ったと説明すると、入国カードを書けという。
「その用紙は?」
と訊くと、審査ブースにあるという。審査を受けたブースに戻って訊くと、男性の審査官はこういった。