東京を中心に首都圏には多くの医学部があるにもかかわらず、医師不足が続いている。だが、現役の医師であり、東京大学医科学研究所を経て医療ガバナンス研究所を主宰する上昌広氏は、著書『病院は東京から破綻する』で、「副業」がはびこる医療界の現状について解説している。
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医局員だけでなく、医局のトップである教授も副業に勤しんでいます。首都圏の私大の教授を務める50代の外科系医師は、「給料は手取りで40万円台です」と言います。
教授職にある彼も、毎週大学以外の病院で診療しています。アルバイト料は若干高いかもしれませんが、診療のアルバイトをしているという点は普通の医局員と変わりません。
ただし、教授には、医局員ではできない副業があります。それは、医師派遣の斡旋です。
日本のほとんどの民間病院は、大学医局から派遣される医師によって診療されています。大学の医局に所属する医師を招聘し、民間病院は最新の医療技術を導入してきました。大学医局と民間病院の人的交流は、地域医療の向上に大きな貢献を果たしてきたのです。
大学病院は、あくまでも教育・研究・診療機関であり、人材派遣会社ではありません。法的には、大学病院が人材派遣により利益を得ることは認められていません。ただし、これは建前であり、両者の関係は時に不適切なものになります。都内の病院経営者は「外科医などを常勤で派遣してもらえば、億単位の売上が期待できる。教授に数百万円戻しても十分に元はとれる」と言い切ります。
教授職に対する医局員派遣の見返りは、「顧問料」や「奨学寄附金」です。こうやって、医局を仕切る教授たちは「不労所得」にありつきます。
教授の立場に立てば、給料が固定している大学で診療するより、関連病院での診療にウェイトを置いた方が儲かる。大学のガバナンスを考える上では、由々しき問題です。
教授は、大学病院の経営陣という立場と、医局のトップという2つの立場を有します。