他の子どもの短冊には、ケーキ屋さん、お花屋さん、ライダー、レンジャー、プリンセスなど、(一応)人間を超えない範囲内の願い事が書かれていました。「うん……、ハチミツおいしいもんね」と否定はしない返事をしながら、思い出したのはローゼンタール。そうです。彼のような、ウソをウソと思わせない、飄々とでまかせを言える力は、実は育児界で立派に役立つものだったのです。

 私は「ハチミツが食べたいなら、ハチより養蜂場に勤めるほうが簡単ではなかろうか」という現実的で小難しい話をすることなく、「まことならきっとなれる」と言い切って短冊を提出しました。コツは、他の親の目を気にしないことです。

 ちなみに息子は、プーさんが風船で空を飛び木の上のはちみつを取ろうとする有名なシーンで「風船下りて! 下りてよ!」と激怒し、プーさんではなくハチの味方をするほどのハチ好きです。先日はお店でハチのマークがついたバッグを欲しがりました。なんとなくですが、この子いつかハチに刺されるんじゃないかな?

(文/杉山奈津子)

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