■東日本と西日本で拡がる格差
ここまでの格差が発生した理由は、医師や看護師の偏在と全く同じで、首都圏に理学療法士の養成機関が不足しているからです。
理学療法士になるには、大学、短大、3年制、および4年制の専門学校などに設置された専門課程を修了しなければなりません。16年11月現在、日本には258の養成施設がありますが、その所在は西高東低です。たとえば、人口約1317万人の九州(沖縄を除く)には38の養成施設がありますが、人口規模がほぼ同レベルの東京都には17しかありません。千葉県と埼玉県を合計すると九州とほぼ同じ人口規模ですが、養成施設は21です。格差ができて当然です。
私が理学療法士不足を認識したのは、東日本大震災がきっかけでした。
私たちは、東日本大震災以降、福島県浜通り地方での医療支援の一環として、毎年相馬市の仮設住宅入居者の健康診断を行っています。仮設住宅入居者は運動不足で足腰が弱りがちで、転倒して骨折するなどして、要介護の状態になりがちです。
九州大学出身で相馬中央病院の整形外科医である石井武彰氏は、この問題を重視し、健診の際に、福岡市の福岡豊栄会病院の理学療法士を呼んでくれました。石井氏は、かつて豊栄会病院に勤務したことがあり、理学療法士の方々と懇意だったのです。
福岡豊栄会病院の理学療法士のリーダーである加藤純平氏は、相馬市の高齢者と相対して驚いたようです。「九州よりはるかに遅れています。理学療法士が不足しているため、十分なリハビリを行っていません。これでは寝たきりになります」と彼は言います。福島県の理学療法士は人口1000人あたり0.64人です。
私が研修医時代から診療を続けている埼玉県は、日本一、医師が不足している地域です。理学療法士も足りません。人口1000人あたり0.55人で、福島県よりも不足しています。そのためか、私は相馬市の高齢者を見ても、そこまで違和感を抱きませんでした。