おそらく、首都圏のリハビリの状況は福島県よりも劣悪でしょう。一部の裕福な患者は最高レベルのリハビリを受けられるでしょうが、大多数は西日本の患者なら受けることができるリハビリを受けられていない可能性が高いのです。これは、看過できない問題です。できるだけはやく、多くの理学療法士を育成しなければなりません。

■理学療法士育成を阻む業界団体

 理学療法士は、雇用を増やします。理学療法士という国家資格を取れば、生活の安定も期待できます。理学療法士の年収は30代で450万円、50代で600万円程度。サラリーマンの平均年収(415万円)を大きく上回ります。

 高齢化が進む日本では当面、理学療法士が余ることはありません。前出の加藤純平氏は「(福岡県でさえ)就職率は100%です」と言います。

 にもかかわらず、首都圏で養成施設が増えない理由は、既得権益を守りたい業界団体と、国民の健康よりも業界団体の利害調整を優先する厚労省の態度が原因でしょう。

 当初、厚労省は、将来的な高齢化を見据え、理学療法士養成施設設置の基準を緩和しました。00年に118校だった理学療法士養成施設は、12年には251校まで急増しました。

 理学療法士の業界団体は、この状況に危機感を抱きました。需給バランスが崩れ、待遇や雇用状況の悪化を招くと危惧したのです。

 既得権を守るための動きは迅速でした。詳細は省きますが、04年には日本理学療法士連盟という政治団体を設立し、政府に対して研修要件を厳しくして、理学療法士の養成数を抑制するように働きかけたのです。

 こうしている間にも、格差はさらに広がりつつあります。医師も理学療法士も多い西日本では、熾烈な競争を通じて、ユニークな治療法が開発されています。

 知人の鄭忠和・和温療法研究所所長らは、心臓病患者を対象に低温サウナを用いたリハビリ療法を開発し、国内外から多くの患者を呼び込んでいます。鹿児島県には指宿温泉や霧島温泉など全国的に有名な温泉があります。鄭医師は、鹿児島大学大学院循環器呼吸器代謝内科の教授在職中から、この治療法の研究を進め、病院の収益だけではなく、地元の温泉の経営にも貢献しています。

 寝たきりになるのは、誰もが避けたいと思っています。理学療法士を増やさなければ、高齢者が充分な支援を受けられないまま寝たきりになってしまう――。悲劇的な状況を避けるには、東日本で、理学療法士を増やすべきなのです。

※『病院は東京から破綻する』から抜粋

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