歴史上の人物をみても、美人は短命なのが定説だった。しかし、日本大学医学部教授の早川智氏によると、美人は統計的にも医学的にも長命だという根拠があるという。女性向け健康・ライフスタイル誌『ゆとりら 夏号』に寄稿された、同氏のコラムをお届けする。
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「美人薄命」という言葉がある。古代エジプトのプトレマイオス王国と運命を共にしたクレオパトラ7世、安史の乱で落命した楊貴妃、フランス革命の犠牲となったマリー・アントワネットなどが思い浮かぶ。
出典を調べると北宋の詩人・蘇軾(そしょく)の「佳人薄命」に行き着くが、原典の意味は、美人も持てはやされる期間は長くないので、その後は門を閉じて花の落ちるのを待つのみという残酷な話である。女性の平均寿命世界一の日本で、筆者と同年代にあたる本誌読者には同意できないであろう。
実際、同窓会で久しぶりに会う疲れた男性陣に対し、女性は逆に生き生きとしている。 卒業生がすべて故人となった1920年代のカナダの卒業アルバムの中から、現代の男女大学生に「美人だと思われる女性」を選ばせてその寿命を調べたところ、男子学生に美人と評価された女性は統計的に長命であるという報告がある。この研究で女子学生の評価は寿命と無関係だったことから、美人とは、男性に対してより健康であることをアピールするという進化の上の戦略らしい(美人だから大事にされたのだという反論もあるが)。
面白いことに、美人の写真を見せて脳の機能をfMRI(機能的磁気共鳴画像診断)で調べると、男性においてのみ側坐核、扁桃体、中脳被蓋など脳の中でも原始的な基底核が活動する。これらは麻薬で興奮する部位である。つまり、カルメンや妲己(だっき)、褒ジ(ほうじ/ジは正しくは女偏に以)など「男子の鉄腸をとろかす」ファム・ファタール(運命の女)は、本当に麻薬だったのである。
一方、ふるまいの美しさを感じると、より広範に大脳皮質が活性化し、見る人をリラ
ックスさせるという。この場合は男性でも女性でも差はない。
美しさを保つ女性は、本人が長生きするだけでなく、周囲にも好影響を与えるのである。