運動は歩くのが基本です。僕は今でもエスカレーターに乗らない。階段を登る。空港の動く歩道にも乗らない。隣を早足で歩く。乗っている人を追い越した時には言いようのない達成感がわき上がってくる。こういうのを大事にしていると、次第に体を動かすのが楽しくなってきます。

――健康に不安を抱いている患者さんには、どのように接していますか。

日野原: 人間というのはもともと病気を持っている存在。生まれながらにして遺伝子に老化が組み込まれていて、動脈硬化や糖尿病など、いろんな病気の遺伝子を持っている。だから、全くの健康人なんていない。大事なのは「健康感」を持つことです。

 健康とは、朝起きた時に「ああ爽やかな日だな。今日はどんなことができるかな。そういえば、孫が帰ってくるな。これは楽しみだ……」などと、生きている幸せを感じ取っている状態を言う。こういう健康感を持っていれば、その人はもう健康なんです。たとえリウマチがあったって薬を飲めば普通に近い生活ができる、糖尿病や高血圧があったって薬さえ飲んでいれば仕事ができる、こんなふうに日常生活に支障がなければ、それはもう健康なんですよ。

 ところが、患者さんの中には、あれこれと不安を抱く人がいる。ドックで調べてなんの問題もないにもかかわらず、調子がすぐれないから、もっと調べてほしいと言う。せっかくお金を出したんだから、病気を見つけてほしい……とか。いわば、健康感とは正反対の「不健康感」を持っている。こんな患者さんには、「もともと人間は病気の遺伝子を持っているんだから、精密機械のように完璧な体で生きていくことはできない」と話します。発想を転換させることが大事なんです。

 お金を儲けている人はもっともっとお金を儲けたいから、いつまでたっても満足感がない。でも、お金があまりない人はささやかなことにも幸福を感じる。それと同じで、完璧な健康を求め始めると不健康感を抱くばかり。いつまでたっても健康にはなれません。

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