ボランティアという言葉は、カトリックのミサで瞑想する時に弾かれる音楽であるヴォランタス(voluntas)からきています。心の思いのとおりを音にするわけだから、ボランティアはなにはともあれ自然体でなければならない。「しなくてはならない」と言われてするのはボランティアではない。やはりボランティアは純粋な気持ちで、自分を捧げるという基本が大事です。
――理想のかかりつけ医はどんな存在でしょう?
日野原: 日本では開業医よりも、病院の先生のほうが偉いと思われている。これは大間違い。大学病院ほど研修医や経験のない人が多くいる(笑)。地域に根付いて診療を行っている開業医のほうが名医であるのは間違いない。でもなぜか、一般の人は大病院に権威を感じ、そちらのほうが良いということになってしまう。
かかりつけ医は、地域に住んでいるから患者の日常生活など、個人的な事情をよく知っている。大学病院なら血圧が高いとなると、さあ血圧降下剤だということになりがちだけれども、かかりつけ医は、その人が今どんな心理状態であるかに思いをめぐらす。そして、「そういえば、子どもが受験だ。だから、血圧が高いのは当然。試験が終わるまで様子を見て、それでも高ければ薬を出そう」といった判断にたどり着く。かかりつけ医にしかできない診察です。
検診なども、患者自身が決めるのではなく、かかりつけ医が、症状を聞いて、どの検査を受けるのかを決めるようにしたらいいと思う。いずれにしても、最近は、若い医師たちが少しずつ、いろいろなことにチャレンジするようになってきているので、あと10年ほどたったら、日本におけるプライマリケアはかなり良くなっていると期待しています。
――高齢者を診る時のヒントはありますか。
日野原: 高齢者は言ったことをすぐに忘れる。だから、1回言っただけで分かってもらえると思ってはならない。患者は10のうち1を理解したと受けとめるといい。「前に言ったじゃないですか!」という言い方は良くない。ケンカになってしまう。辛抱強く、包容力を持って、気長に「こうですよ、忘れないでくださいね」と説得することです。忘れたら、また同じことを説明する。高齢者を診るのは、気が長くないと務まりません。
聞き手/近藤雅人 メディカル朝日編集長(当時)