何を食べても美味しい店ですが、真骨頂を発揮するのが冬場だけしか食べられない「蒸し寿司」。寿司を蒸す。長崎や尾道、高知などの一部を除いて、他の地域では思いもつかないでしょうが、底冷えのする冬の京都ではこれほど有難い寿司はありません。
刻み穴子をたっぷり入れた酢飯に錦糸卵と、海老やイカ、椎茸の煮付けなどの具材を載せて蒸籠で蒸し上げます。火傷しそうなほどの熱々を頬張ると、身体が芯から温まるのです。
「蒸し寿司を食べるなら、老舗『末廣』に限る」。
多くの都人が口をそろえます。
■「鮨まつもと」で江戸前祇園鮨をつまむ
ラストの3店目は、「江戸前握り」のお店を紹介しましょう。
少なくとも僕が子どものころまでは、京都で寿司といえば、箱寿司や棒寿司、もしくはちらし寿司が主流でした。出前の寿司桶にも必ずそれらが入っていて、添えもののようにして握り寿司が置かれていたのです。
東京で学生生活を送った僕の祖父には、それが大きな不満でした。今は亡き祖父は、京都で数少ない江戸前鮨の店のカウンターに座って、いつも真の江戸前握りを語っていました。
そんな祖父が地団太を踏んで悔しがるだろうお店が、「鮨まつもと」。
「鮨まつもと」が、本格江戸前鮨を引っ提げて祇園に暖簾をあげたのは2005年のこと。いわゆる仕事を施した江戸前鮨、赤酢を効かせ甘みを極力おさえたシャリ、若き主人の端正な所作……どれもが新鮮な驚きを持って京都人に迎え入れられました。
「鮨まつもと」は、今や「祇園鮨」と呼びたくなるほど、見事に京で華を開かせました。
京都で江戸前寿司を食べるなら、「鮨まつもと」がおすすめです。
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