それを裏付けるように、こうした報道に呼応して、5月に予定されている2次入札までに、日本企業グループによる買収参加を目指す動きが表面化してきた。
この構想を主導するのは、もちろん、経済産業省だ。経産省の声掛けで、東芝と取引のある企業数十社に1社あたり100億円ほど出資してもらい(奉加帳方式)、不足分を産業革新機構や日本政策投資銀行などが拠出する「日の丸連合」を形成する構想である。
ただ、2兆円どころか3兆円近くを提示しないと勝ち目のない入札で、民間企業から集められるのが数千億円程度だとすれば、政府系で2兆円前後出さなければならない。かなりハードルが高いプロジェクトだ。
しかし、その金額がいくらになっても、この「日の丸連合」構想で、東芝メモリが事実上政府・経産省の子会社、つまり植民地になるということを意味する。ここがポイントだ。
東芝経営陣も日の丸連合の出資提案を受け入れる考えを表明しているが、この買収が成立すると、本来はかなりの企業価値があり、IoTの進展に伴って、明るい展望が開けるはずの東芝メモリの未来は、かえって暗いものになることは確実だ。その理由は簡単なことだ。
半導体ビジネスは浮き沈みが激しく、年間数千億円規模の投資を続けても、高い利益を上げるのはトップランナーだけ。いわば、勝者総取りの産業だ。そのトップでさえ油断すれば、すぐに技術が陳腐化し、競争力を失う。価格の乱高下も当たり前だ。その難しさをわかっているからこそ、お金が余っているはずの日本企業も怖くて入札に参加できなかったのだろう。
この世界で生き残る条件は、技術水準以外に三つある。第一にけた外れの豊富な資金、第二に即断即決のスピーディーな経営判断、第三に大きなリスクを取る企業風土だ。この三つが揃って、初めてこの業界での競争参加資格があると言っても良いだろう。
一方、経団連の大企業数十社の寄せ集め企業グループに加え、最大の出資者として政府系のファンドや金融機関が名を連ねる企業がどんなものか想像してみよう。必要な3条件すべてで、最低ランクになるのは確実だ。東芝メモリにとっては、最悪のオーナー構成である。