2016年4月14日、熊本地震が発生。損保ジャパン日本興亜の本社では、西澤敬二社長を本部長とする「危機対策本部」が設置された。社員の安否や現地の被害状況を確認するとともに、応援社員の派遣を決めた。15日には熊本県に「災害対策本部」を置き、熊本支店長が陣頭指揮を執った。
* * *
4月1日付で熊本支店長に着任したばかりの野間和子は連日、関係先へのあいさつ回りを続けていた。14日は天草方面を訪問し、支店で残務整理をしたあと帰宅した。マンション14階の自宅で夕食の支度をしていた午後9時26分。マグニチュード6.5、最大震度7の巨大地震が熊本地方を襲った。「最初、ドーンと突き上げるような衝撃が来て、それからグラグラと横に揺れだしました」(野間)
流し台につかまって耐えるのが精いっぱいだった。揺れが収まったあと、野間はすぐさま支店に向かった。「災害が起きたら会社に駆けつける」。損害保険会社の社員に刷り込まれた使命感だ。マンションのエレベーターは止まっている。自転車を抱えて非常階段を下り、腕がパンパンに張った。
支店もひどいありさまだった。同社では地震に備え、キャビネットはすべて床面に埋め込んである。それでも倒れていた。野間はほかの社員とともに、まず社員の安否を確認した。
翌15日、全社員の安否確認がまだとれないなか、野間は代理店や法人顧客の被害状況を確認するように指示。地震保険の契約者から問い合わせを受ける「事故サポートデスク」を開設した。
このとき九州本部長の大久孝一(おおひさ・こういち)が約5時間半をかけ、福岡から車で駆けつけた。2011年3月の東日本大震災の際に仙台支店長だった大久が、震災時の経験を野間にアドバイスするためだ。
野間はひとつの決断をした。
「5月末まで支店の営業活動を停止し、営業社員も保険金支払いの支援に全力を挙げる」
一日でも早く、ひとりでも多くの契約者に保険金を支払う。地震保険金は生活再建に不可欠な資金だ。とにかく契約者のことだけを考えなくてはならない。支払う保険金の金額を決めるには、被害を確認する実地調査(実調)が必要になる。
実調に不慣れな営業社員に向けて急遽、勉強会を開き、4月18日から実調にとりかかった。「自分も実調を知らないと指揮できない」。こう考えた野間も2日間にわたり計6回、実調を経験した。
「話を聞いてさしあげるだけで、お客さまがどれほどホッとされているか、肌で感じました」(野間)
多くの代理店からもありがたい申し出があった。「わたしたちにも実調をやらせてください。近道を知っているので早く着けます」。こう言って、鑑定人や1級建築士を乗せて車で被災地に向かった。
この間も全国から応援社員が駆けつけ、ゴールデンウィーク前には、その数は約100人に達した。4月に入社したばかりの総合系グローバル社員127人も派遣されてきた。実調の効率を上げる拠点(デポ)づくりも進められ、熊本県内に計5カ所設けられた。なかでも4月27日、旅館1棟を借り受けた菊池デポ(菊池市)は大きな役割を果たした。
「菊池デポができたことで実調の動きが変わりました」(野間)
菊池デポからは連日、作業着、ヘルメット姿の応援社員が飛び出していった。その姿を見て、野間は涙をこらえるのに懸命だった。(アエラムック教育編集部・西島博之)
※AERA企業研究シリーズ「損害保険ジャパン日本興亜 by AERA」から