■職場の理解を得ることも大切
ここまで紹介したさまざまな制度は、いずれも法律で定められたものなので、利用することに躊躇する必要はありません。ただし、これらを最大限に活用するには職場の理解を得ることも重要です。「親や配偶者が要介護状態であることを人に知られたくない」「職場のみんなが頑張っている時に自分だけプライベートで休むのは申し訳ない」と思うのも無理はありませんが、自分が介護する生活を送っていることをきちんと伝えずに介護休暇をとったり、勤務時間の繰り上げ・繰り下げをしたりすると、同僚や部下、得意先からの信頼を失うことにもなりかねません。復帰後の勤務状況に悪影響を及ぼすこともあるでしょう。
とくに、介護休業制度を利用する場合は、長期間休むことになるので自分の都合だけで決めるようなことは避け、まずは職場の上司に相談しましょう。介護休業は労働者の権利ですが、職場から1人少なくなることで、周囲の負担が増大することも忘れてはなりません。この場合も「介護」と「仕事」の二者択一で考えるのではなく、双方がウィン・ウィンになることを目指すべきです。譲歩できることとできないことを明確にしたうえで、休業を始める時期や期間、業務の引き継ぎ、復帰後の勤務形態などをしっかり話し合って決めましょう。また、上司との相談が済んだら同僚や部下、場合によっては得意先にもきちんと伝えましょう。
前に介護はチーム体制を築くことが大切だといいましたが、仕事についても同じです。そもそも、仕事こそチーム体制で行うべきもので、1人で悩んでいると能率が下がり、やがて職場全体に影響してきます。世間では、高齢化や介護をめぐる問題は特別なことではないという認識が広まりつつあります。介護生活のスタートが決まったらなるべく早い段階で報告し、今後、迷惑をかけることを伝えておけば、周囲からの理解や同意も得やすくなるし、思わぬトラブルが起きた時でも快く協力してくれることでしょう。
西岡修(にしおか・おさむ)
社会福祉法人白十字会白十字ホーム・ホーム長。1978年大正大学卒業後、白十字ホームに生活指導員(現生活相談員)として就職。1995年白十字ホーム副ホーム長。2001年から現職。東京都高齢者福祉施設協議会会長。大正大学非常勤講師。NPO法人YWCAヒューマンサービスサポートセンター理事