「忖度」には、常に違法まがいの問題が付きまとう。だから、本来は、忖度などしない方が良い。しかし、「忖度」しないと上司ににらまれ、出世が遅れたり、その道を閉ざされたりするのは、どの組織も同じだ。しかし、その程度には大きな差がある。
役所の場合は、忖度しないと、その組織には非常に居づらくなる。もちろん、役所を辞めるという選択肢もあるが、その場合、単に役所を辞めることによる直接の不利益だけでなく、その後の人生において、その役所との関係では、差別的に取り扱われるリスクが生じる。江戸の敵を長崎でということである。
一方、「忖度への報酬」も実は、非常に大きい。出世につながるというのは、どこの組織でも同じだが、役所では、人事当局が、職員の退職後の天下りの差配をする。少なくとも70歳くらいまでは、役所の世話になるわけだ。したがって、忖度への報酬は、60歳定年まではなくその後の10年以上にわたって続く。
「忖度」利回りが、他の組織よりも良いのである。ネットなどを見ると、「トカゲのしっぽ切り」をされてしまう、大阪府の私学課長や谷氏が可哀そうだという声があふれている。
しかし、今解説した実態を考慮すると、ことはそれほど単純ではない。
彼らが可哀そうかどうかは、今後、経産省が谷氏に対して、また、大阪府や大阪維新が私学課長に対して、どのような「報酬」を支払うかにかかっている。
また、今後、財務省の官僚が処分されずに終わる可能性も大いにあるが、その場合でも、真実を語らず、文書廃棄までして守り通した安倍政権に対する「忖度」には大きな報酬が約束されている。この場合、貸し借りの関係は、役人個人と政治家の間に直接発生する場合もあれば、役所と政治家の間に発生する場合もある。また、両方に発生することもある。
現実には、政治家に対する忖度の貸しは、多くの場合、その官僚が所属する役所が代わりに弁済する(報酬の支払い)のが普通である。例えば、問題となる土地の不当安値販売を行った当時の理財局長(現国税庁長官)に対しては、財務省が、今後10年以上にわたる天下りあっせんで手厚い処遇をする可能性があるし、また、安倍夫妻は、何かの時に、官僚らに対して便宜を払うことになるであろう。麻生太郎財務相との関係でも大きな報酬を期待できるのかもしれない。
官僚は、そういう計算をしながら、「忖度」をして、報酬を確保する。そして、その結果、大きなトラブルになった時も「忖度による沈黙」を貫いて、さらなる大きな報酬を期待するのである。
国会で答弁する財務省官僚が、苦しそうに見えないのは、彼らが、この「忖度による沈黙」で大きな報酬を得られることを確信しているからではないかと私には思えてならない。(文/古賀茂明)