3回目の受験で、念願の医学部へ入学を果たす。

 医学部では、心臓や血液循環の働きや仕組みをみる循環生理に興味を持つ。循環器はがんやアレルギーなどとは違い、何が問題で、どうすれば治るのかが、理論上はっきりしている。そういうシンプルでわかりやすいところに、宮木医師は惹かれた。

 卒業後は、大学時代に所属していたオーケストラ部の顧問のいる慶應義塾大学病院の外科へ。そのころ、現在も師と仰ぐ心臓外科の名医、樋上哲哉医師(現・葉山ハートセンター院長)と出会う。

「心臓外科医に男女は関係ない」というフラットな考えを持つ樋上医師。愛弟子の一人となった宮木医師との「衝撃的な出会い」を、こう振り返る。

「ある研究会で自施設の手術成績を発表したら、講演後に彼女がつかつかとやってきて、『若手を代表して伺いたい』と言うんです。正確な言い方は忘れましたが、『こんなにいいデータが出るわけがない。成功したデータだけを紹介しているのではないか』という内容でした。質問というより、いちゃもんをつけてきたという感じですね(笑)」

 その後、「データが真実か確かめるため」と、夏休みを使って当時樋上医師が所属していた札幌医科大学を訪ね、手術を見学。そのテクニックの見事さに感動した宮木医師は、その日のうちに札幌行きを決意したという。

 そして、樋上医師に次ぐナンバー2の心臓外科医として、葉山ハートセンターへ。今に至る。

結婚出産でキャリアを途絶えさせたくない

 心臓外科というと、前出のような弁の形成術や置換術、冠動脈バイパス手術、大動脈瘤(りゅう)の人工血管置換術などの大がかりな手術をイメージする人が多いが、不整脈を治すペースメーカーの留置など、簡単にできる手術も多い。そういうなかで宮木医師は、「目指すのはしっかり手術ができる外科医」と言い切る。

 心臓外科医が過酷なのは、手術内容や時間もさることながら、術後管理まで続くところだ。何時間にも及ぶ手術を終えた後は、ICU(集中治療室)に戻った患者をベッドサイドで見守る。1週間帰れないこともざらで、冒頭の患者の手術があった日は、3日間自宅に戻っていないという。そんな過酷な日々も、宮木医師はいとおしむ。

「研修医のときは、術後は必ず患者さんのベッドサイドで眠っていました。そのときに、こういう生活ができて幸せだって思ったんですが、その気持ちは今も変わりません」(宮木医師)

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