普段、化粧は「する時間がないのではなく、単に面倒だから」という理由で、基本的にしない。美容院は年に4回(昔は半年に1度だった!)。ファッションには興味があるが、買いに行く暇がないので、親や周りが買いそろえたもの。食事も適当。どこでも眠れるので、「病院のスタッフのほとんどが、私の寝顔を知っています」と笑う。
齢40。結婚や出産への気持ちを尋ねると、「私はこの仕事が好きで、突っ走ってきました。他の女性の医師がどうとかではなく、結婚や出産でキャリアが途絶えることはしたくないんです。それに、きっと結婚して子どもができたら、家事も育児もすべて自分でやりたいと思ってしまう。それはきっと無理なので、結婚はまだしも、出産については他の女性にお任せします」(同)
●患者さんへの思い入れは女性の心臓外科医の方が強い
今回、病棟での撮影を承諾してくれた心不全で入院中の70代の男性は、「宮木先生は細かいところまで説明してくれて、不安をとってくれる。若いのに素晴らしい先生です」と話す。病室に行く間も、すれ違う患者一人ひとりの肩にそっと手を置き、声を掛ける。車イスの患者には、ひざを折って目線を合わせて会話する。それが彼女の日常だ。
「手術がどんなに順調にいっても、患者さんはやっぱり不安をぬぐえない。だからこそ、医師が近くにいて、不満に思うこと、心配なことを聞き出して、解決してあげないと。自分がどんなに疲れていても、眠くても、患者さんが不安に思っているのなら、行って話を聞いてあげるべきだと思っています」(同)
そんな宮木医師について、前出・樋上医師は言う。
「何人かの女性の心臓外科医を知っていますが、患者さんへの思い入れは男性より強い気がします。なかでもその気持ちが強いのが宮木医師でしょう。何しろ他の医師が患者さんに非礼なことをしたり、約束を守らなかったりするのを見ると、真っ向からぶつかっていきますからね(笑)。自分のやりたいことよりも、患者さんを優先させている。これは性差ではなく、彼女のキャラクター、良さでしょうね」
一流の心臓手術に求められるものは、『安全に、確実に治す』こと。あくまでも主役は患者だ。「一流と思える手術ができるようになるまではまだまだですが、やりたいと思うことは絶対に曲げたくないですね。もし心臓外科医を目指す女性がいたら、こうアドバイスしたい。『好きでやりたいと思っていれば、絶対にかなう』と」(宮木医師)
(文/山内リカ)
※アエラムック『AERA Premium 医者・医学部がわかる』より抜粋