■「女性だから」と言われないように
加齢や病気によってその働きが低下した心臓や大血管を再建し、元の状態に戻す。高度で繊細な技術と、長時間に及ぶ手術を行うための忍耐力が必要とされるのが、心臓外科医だ。その過酷さからなのか、わが国の心臓外科医に占める女性の割合は、たった5%。医師全体の女性の医師の割合は約20%なので、それと比べると相当少ない。
そんな男性社会ともいえる心臓外科の世界のなか、第一線で活躍しているのが、宮木医師だ。女性が心臓外科医になることの困難さについて尋ねると、少し間を空けて、「女性だからとか、そういうことは心臓外科では関係ないですね」と話す。だが、「今になって思うと、ということですけれど……」と続け、こうも言う。
「確かに昔は、『女の心臓外科医はいらない』って言われたこともありました」
具体的な内容については口にしなかった。その言葉は、宮木医師がいない酒席で出たもので、宮木医師は後日、同僚からそのことを聞いたという。
「頭に来ましたが、考えてみれば、私自身も女性であることを意識していました。男性に負けない体力をつけようと、たくさん食べましたし、仕事も絶対に休まなかった。それどころか、むしろ『疲れた』という男性の同僚を励まして、仕事を手伝ったくらいです。『女性だから』って言われないよう、意地になっていましたね」(宮木医師)
その結果、「宮木の体力にはかなわない」と周りの医師から言われるまでに。誰よりも熱心に仕事に打ち込む姿に、上司や同僚から信頼される存在へと変わっていった。
「心臓外科医という仕事は、男性でも続けることがたいへん。中途半端な気持ちでは務まらない。一方で、強い信念さえ持っていれば、女性でも活躍できる世界だと思います」(同)
■師が語る宮木医師との「衝撃的な出会い」
一般的なサラリーマン家庭の次女として生まれた宮木医師。心臓外科医を目指すきっかけは一風変わっている。
「両親いわく、小学生のときにテレビドラマでやっていた『開胸心マッサージのシーン』を見て、『あれをやる人になりたい!』と言い出したそうなんです。だから、私の夢は医師ではなく、心臓外科医だったんです」