さまざまな思いを抱く人々が行き交う空港や駅。バックパッカーの神様とも呼ばれる、旅行作家・下川裕治氏が、世界の空港や駅を通して見た国と人と時代。下川版、「世界の空港・駅から」。第16回はマレーシアのスバン空港から。
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今年の7月、クアラルンプールのKLセントラル駅の近くにある安宿でパソコンを開いていた。翌日のコタバルまでの飛行機を予約する。ファイアーフライという航空会社だ。マレーシア航空の子会社で、主にプロペラ機を使ってマレーシア国内を飛んでいた。予約が終わりパソコンを閉じようとしたとき、利用空港の名前が目に留まった。
「ん? スバン空港?」
昔、どこかで聞いたような気がしたが、確かな記憶がない。調べると、旧クアラルンプール空港だった。1998年にその役割を終えたはずの空港だ。
この空港が現役だった頃、何回かマレーシアを訪ねているが、いつもタイかシンガポールから陸路で入国していたため、スバン空港は使ったことがなかった。
市内からいちばん近い空港だが、空港へ向かうバスもはっきりしない。
翌朝、KLセントラル駅の案内に聞くと、バスはない、とぶっきらぼうにいわれた。不機嫌そうな職員は、電車でクラナジャヤ駅まで行き、そこからタクシーだという。それ以外に行き方はないようだった。
到着してみるとその空港は、日本の地方空港のような規模だった。発着案内を見ると、かなりの数の便がある。しかしそのほとんどが、ファイアーフライとマリンドエアだった。
「つまりは対エアアジアグループってこと?」
かつて国際空港として機能していたスバン空港を引き継いだのは、KLIAと呼ばれる、いまのクアラルンプール国際空港だ。しかし話題を集めたのは、その敷地内にできたLCCT(ロー・コスト・キャリア・ターミナル)だった。いまは建て替えられKLIA2と呼ばれるが、アジアに生まれたLCCの一大拠点空港だった。