開幕間近のロンドン五輪。スポットを浴びる選手の陰には、彼らを支える職人がいる。その知られざる仕事ぶりに迫った。
・森 昭雄(自転車競技のメカニック)
最も車体に力がかかるスタートは、最もトラブルが起こりやすい。自転車の故障を事前に防ぐのが使命。それだけに、大きなレースのスタートの時には、緊張でのどがカラカラになる。
レース直前には、二十数個あるすべてのネジをチェックする。
「ネジを緩めた時に、"ネッチョリ"とした感触だと危ない。あと1回締めたら壊れるかな、とか、手触りでわかります」
国際レースでは、他国のメカニックがアドバイスを求めてくるほどの凄腕職人である。
・鹿取正信(セーリングのセール[帆]開発者)
手掛けたセールを使う470級日本代表は、メダルが有望だ。
開発には、GPSセンサーや小型カメラ、パソコンなどを駆使し、風がセールに及ぼす影響などの解析結果をリアルタイムで見られるシステムを使う。これまで選手の感覚に頼っていた帆走テストよりも、開発の効率が大幅に上がった。もともとは、大型艇レースの最高峰、アメリカ杯で自身が開発したもの。これを小型艇用に改良した。
「470級でここまでやっているのは日本だけでしょう」
・宮本義和(室伏広治選手のシューズ職人)
37歳の今もハンマー投げの世界トップクラスに君臨する室伏広治選手。その足元を支えるシューズは、ミズノで職人歴37年のクラフトマンの手によるもの。
約20年のやりとりを経て、シューズの仕様も複雑に。今回も雨が多いロンドンを意識し、ハンマー投げの回転を左右するソールの材質などを変えた。踵(かかと)の削り具合など繊細な調整も行う。
「室伏選手から『ミズノの最強スタッフに出会えて幸せです!』との言葉をいただき、職人冥利に尽きます」
・歳永ゆきね(シンクロの水着デザイナー)
艶(あで)やかな緑と虹色の水着。約千個のスワロフスキーがキラキラ輝く。チームフリーのテーマ「摩訶不思議ワールド」を体現した水着は、静岡のとある住宅街で作られた。歳永さんは21歳までシンクロを続けていたが、高校生の頃から水着を作る側に魅せられるようになった。試作品は自ら着て、シンクロの激しい動きに耐えうるかをプールで確認する。
「自分が演じるより、作った水着を着て演じてもらうほうがうれしいです」
・畠中卓也(柔道男子のトレーナー)
北京五輪の直後から、男子柔道の日本代表に寄り添ってきた。帯同する合宿と遠征は、年の半分近くにもなる。
今年6月の代表合宿の練習では、「右ひざ下が調子悪い」と100キロ級の穴井隆将選手が畠中さんのもとへ。
「力が入るようにしてほしいのだな」
と瞬時に判断し、つっぱり感のある右すねをストレッチし足首を回転させた。「よし、行ってくらぁ」と立ち上がり、練習に戻る穴井選手。そこには、4年間で築かれてきた「信頼」があった。
※週刊朝日 2012年8月3日号