さびを落とすといっても、細かいヤスリがけをしていくだけでは到底追いつかないため、ハンマーでたたいて、腐食部分を落としていく。また、ハンドドリルの先端に剣山が取り付けられたような器具「エアーニードルチゼラー」を使い、金属製の針で表面を強力にたたきながら、さびを落とす手法も取られていた。しばらく見ていると、それが当たり前の光景に見えてくるが、先のとがった剣山で、自分のバイクのフレームやホイールを直接削るように磨くことはありえない。築地ならではの、なかなか猛烈な整備だ。

 ターレ1台の整備を終えると、周囲は落とされたさびの山。ほうきで掃き寄せられたさびは、ちりとり一杯には収まらないほどだ。榊オートにおける整備は、さびとの戦いだった。

 さびをたたき落としている傍らで、ニチユからターレの新車が納品された。さびたフレームしか見ていなかった私は、本来のフレームは灰色だということを知った。そばで整備をしていた須藤さんに「やっぱり新車はいいですね」と私が話しかけると、「こうなる(さびて腐食が進む)まで、あっという間ですよ」との返事がかえってきた。

「(ターレの寿命は)4、5年なんです。モーター部分が壊れることはまずありません。フレームがさびて駄目になる(折れる、または著しく強度不足となる)か、バッテリーが駄目になる(十分に充電されない、力が出ない)か、どっちかですね。」

 さびることが寿命の2大要因のひとつとなっていることに驚く。一方、バッテリーならば交換すればいいのではないかと思ったが、それは現実的な選択肢ではないと、須藤さんは話してくれた。

 バッテリーを交換して延命させると、車両のさびが原因で車両が寿命を迎えた際に、バッテリーだけが生き残ることが起こりうる。バッテリーの価格は、ターレの車両価格の3分の1をも占める高価なもの。さびとの戦いとなる車両寿命とのバランスを考えれば、バッテリー交換は、決して最善の策とはならないのだ。
 一方、バッテリーの寿命は車両の使用頻度によって異なる。1日の使用頻度が高いために劣化が著しく、現状のままでは日々の使用に耐えられそうもない場合だけは、新品バッテリーを投入することもあるという。

 フレームのさびが先か、バッテリーの消耗が先か。築地のターレの寿命と、一般道を走る一般車両の寿命とは大きく異なることを知った。

 ターレ本体の整備に加え、榊オートのもうひとつの大切な整備事項に、バッテリーへの補水がある。ターレで使用されているバッテリーは、一般車両に使われているものと異なり、定期的なメンテナンスを要する。使用のされ方によってさまざまに異なるバッテリー液の減り具合をチェックし、必要に応じてバッテリー液を補水しなければならない。

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