注意分割機能は複数のことを、注意を配りながら同時にする機能を指します。このため右手と左手で違うことをする脳トレや歩きながら会話をするというように、二つか三つのことを同時にするトレーニングが役立ちます。
実行機能は段取りを考えて実行する能力のこと。架空の旅行の計画を立てる、料理をする人なら季節ごとに新しいレシピを考えるといったことがトレーニングになります。
このような認知症予防プログラムは、地域でも実施されています。MCIの段階でこうした場に参加して人と交流することは、認知機能を高めることにもつながるのです。
また、高血圧や糖尿病などの生活習慣病は、認知症のリスクを高めることがわかっています。このため、MCIと診断されたら生活全般を改善することも大切です。
MCIと診断されても、残念ながらそれを治す治療薬は、現在のところありません。だからこそ、積極的に予防に取り組む意味があります。
MCIの診断や治療は「物忘れ外来」や「認知症外来」などを標榜している医療機関で受けられます。診断のために必要な検査は、問診や、認知機能低下の有無や程度を調べる認知機能テスト、脳画像検査、血液検査などです。
本人が気になって受診する場合もありますが、まずは家族や周囲の人が「最近物忘れが多いけれど認知症ではないか」と不安になって本人を受診させる場合が多いでしょう。この場合、本人が受診を嫌がることもあります。
「『認知症』や『病気』という言葉を使われると、本人は否定したくなるものです。『最近物忘れがあるけれど、これ以上ひどくなってほしくないから一度病院に行こう』というように、認知症や病気という言葉は使わずに伝えることが大切です」(本間医師)
(取材・文/中寺暁子)
※週刊朝日ムック『すべてがわかる 認知症2016』より