いま、新しい落語ムーブメントが起きている。『アエラスタイルマガジン 31号 』(朝日新聞出版)でも特集が組まれ、若手“イケメン”落語家たちの活躍を知ることができる。若手落語家目当てに「出待ち」するファンまで現れ、寄席では黄色い声が聞こえるという、いまだかつてない状況が繰り広げられているのだ。この落語ブーム、果たして本物なのだろうか? 一過性ではないと断言できる理由が、寄席にあった……。
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各所属協会や団体を超えて若手を中心に活況を呈しているこの落語ブームは、決して一過性のもので終わらないだろう。あまたある余暇の選択枝のなかに、確実に「落語を聴く」ことが根づいてきた手ごたえがあるからだ。そして、それを揺るぎないものとして根底で支えるのが、定席の寄席の存在である。
歌舞伎座のように一年中落語の公演をやっている常設の小屋が「寄席」である。大阪には1軒「天満天神繁昌亭」があるが、東京には4軒、新宿の「末廣亭」、上野の「鈴本演芸場」、浅草の「浅草演芸ホール」、池袋の「池袋演芸場」、そして20日間昼だけの興行で国立演芸場の寄席がある。
この寄席という江戸から続く小屋の摩訶不思議な存在が、実は300年の歴史をもつ古典芸能である落語を保っている。だからイケメン落語家たちに黄色い声援が飛ぼうが浮ついた現象などのみ込むほど落語は懐が深い大衆芸能なのだ。ブームを牽引する男前な若手落語家の筆頭である春風亭一之輔の名言に「寄席は落語家にとってホームだがアウェイである」というのがある。これは、寄席は本来の落語をやる場所(ホーム)なのに常にアウェイの戦いをしなくてはならないということだ。