同じようにして挑んだ2012年のロンドン五輪では、試合前夜に不安で眠れなくなった。振り返っても緊張で眠れなくなったのは生まれて初めてのことで、その事実も吉田を不安にさせた。決勝が始まる直前、セコンドについた父が「小さい頃からやってきたことをすればいいんだよ」と語りかけてようやく気持ちが鎮まり、五輪3連覇に届いた。
そして4連覇がかかる今回は、過去の五輪とは異なり、昨年12月の全日本選手権を最後に約半年、試合をしていない。2014年3月にくも膜下出血で急逝した父もいない。このまま試合をせずに、リオデジャネイロ入りする予定だ。試合間隔が空きすぎると心配する声もあがるが「よい調整ができているので」このまま本番に挑むつもりだ。
身近な人には冗談交じりに「試合はすごく緊張するから、何回も繰り返したくないよ。もうおばちゃんなんだから(笑)」と漏らしている。言葉だけを見ると気弱なように感じるかもしれないが、年齢による肉体の変化を経験で強さに変えてきた、自信の裏返しにも受け取れる。たしかに最近の吉田は、以前のように圧倒的なフォール勝ちをすることはなくなったが、競り合っても負けない勝負強さに磨きがかかっている。8月には、リオデジャネイロで五輪4連覇を見せてくれそうだ。
(文・横森綾)