15年11月、経済産業省に勤める性同一性障害の職員が戸籍上は男性であることを理由に女子トイレの使用を禁止されたり、人事上の不利益を被ったとして、国に損害賠償と処遇改善を求める全国初の訴えを起こしたのだ。

 職員はホルモン治療や女性に近づけるための手術を重ねて「女性として社会適応できる」と判断し、女性としての処遇を要求。だが、経産省は女性の服装や休憩室の使用は認めたものの、女性トイレの使用は原則として許可しなかった。戸籍上の性別を変えない限りは「障害者トイレを使ってもらう」との判断だったが、職員は皮膚疾患などが原因で戸籍上の性別変更に必要な適合手術は受けられない状態だという。

 さらに、女子トイレを使用するなら異動ごとに同障害をカミングアウトして同僚の了解を得るようにと求められ、異動希望を出せない状況になった。上司から「性別適合手術を受けないなら男に戻るべきだ」などと言われてうつ病になったとも訴えている。

 また、日本ではトイレ論争だけでなく伝統の文化である銭湯や温泉施設でも同様の問題が浮上している。トランスジェンダー問題を扱うNPO職員が、その背景を説明する。

「性別適合手術を受けていない場合は特に不利益を被りやすく、戸籍上は男性で『性自認』は女性という人が女湯に入り、警察沙汰になってしまった事例もある。かといって、『性自認』が女性なのに男湯に入ったり、『性自認』が男性なのに女湯に入っていたら自尊心が傷つけられる。銭湯や温泉は民間業者なので容易に対応を求められないという問題もある」

 日本でも近い将来にトイレ論争が起こるのは確実だろう。さらに「銭湯論争」が起きた場合、裸と裸の付き合いであるだけにトイレ論争以上の摩擦が生まれる可能性もある。アメリカの騒動を対岸の火事とせず、われわれ全員が考えていかなければならない問題だ。(ライター・別所たけし)