関西でベンチャー育成といえば、近畿大学も存在感を放っている。
近大水産研究所が母体となって設立した「アーマリン近大」は完全養殖のクロマグロなど近大産の魚の生産・販売を手がけている。最近ではブリとヒラマサの交雑魚「ブリヒラ」など魚種を増やし、東京・銀座やJR大阪駅前にも直営店を構えるようになった。
「起業するなら、近大へ。」をスローガンに、22年4月に起業支援プログラム「KINCUBA(キンキュバ)」を設立。同年10月には東大阪キャンパスの西門前に24時間利用可能なインキュベーション施設もつくった。大学創立100年を迎える25年までに100社の大学発ベンチャー企業の創出を目指す。
お隣の京都府には学園全体で起業家育成に取り組むところもある。
小学校から大学まで擁する学校法人立命館は、社会課題を事業の力で解決する「社会起業家」の育成に取り組む。その一つとして、19年に支援プラットフォーム「RIMIX(リミックス)」を立ち上げた。対象は立命館で学ぶ全ての人。大学生や大学院生はもちろん、小中高校生も参加できる。起業マインドの育成やアイデアを起業へとつなげる実践的なプログラムのほか、小学生向けにも最先端のサービスに接する機会を作る東京へのスタートアップツアーなどもある。
■学内ビジコンが起業につながる
RIMIXに参加した立命館大学食マネジメント学部3回生の柳陽菜さんは、同級生の作野充さんとベンチャー企業の「FoodFul(フードフル)」を22年に設立した。食育を主な事業とし、離乳食に悩むパパやママと、専門家をつなぐマッチングサービス「childish(チルディッシュ)」をリリース。1月25日時点でユーザー447人、専門家14人が登録する。
柳さんが参加したプログラムの一つが「総長PITCH CHALLENGE」(総長ピッチ)だ。学生が持つ興味関心から事業プランを作り、新規事業立ち上げに詳しい「メンター」と共にブラッシュアップしていく。最終案を総長や起業家たちの前でプレゼンするというもの。このプログラムを通じて、アイデアレベルだった事業プランが洗練されていき、起業できるレベルまで落とし込むことができたという。
「childishは、さまざまな悩みや不安を抱くことが多い離乳食期のサポートを通じて、ママさん・パパさんが食を楽しめる環境にしたいという思いで開発したサービスです。実現できたのも、自分が本当にしたいことは何か、それを実現するための最適な方法は何かなど専門家のアドバイスを受けながら、現実的な事業計画を練ることができたからだと思います」
柳さんはこう続ける。
「起業は私にはほど遠いものでしたが、プログラムに参加することで少しずつ起業への距離をつめる期間をもらっていたなと感じています。総長ピッチやビジネスコンテストが学内にあったことが起業に踏み出すきっかけにもなりました」
全国の大学にはベンチャーの種が数多くあり、起業に燃える学生もいる。大学発ベンチャーは、停滞する日本経済に風穴を開けることができるのか。これからますます目が離せない。(本誌・唐澤俊介)
※週刊朝日 2023年2月17日号