「健康医療ベンチャー大賞」を開催し、「慶應義塾大学医学部発ベンチャー協議会」も立ち上げた。協議会には現在18社が加盟し、22年12月時点で時価総額は457億円(前年比106億円増)まで成長した。
坪田氏は「委員長就任当時から『医療で金もうけをするのはよくない』という意見の方々はいます。もちろんこの考えも大事なことです」と話したうえでこう続ける。
「ベンチャーがイノベーションを起こせなければ日本の医療は本当に立ち行かなくなる。慶大医学部では、まずは100社の創業を目標にしています。例えば1社が100億円の外貨を稼げば、1兆円(医薬品・医療機器の)赤字を減らせる。ベンチャー創業の流れを学内外に広め、起業家が増えれば赤字を解消できる。まずはその模範となるべく活動しています」
その考えを後押しするように、慶大は15年、全国の私大に先駆けて、独自のベンチャーキャピタル(VC)「慶應イノベーション・イニシアティブ」(KII)を設立した。大手金融機関なども資金を出す「1号ファンド」と「2号ファンド」(計150億円)は、医薬品開発の「クリングルファーマ」やiPS細胞を用いた心筋再生医療の「Heartseed(ハートシード)」など、計45社に投資。上場する企業も出てきた。夏には150億円の「3号ファンド」を設立予定だ。
■起業を支える慶大の研究力
KIIの宜保友理子・リレーションシップ・マネージャーが、慶大ならではの強みを語る。
「一つが医学部の研究力の高さです。例えば、再生医療やマイクロバイオーム(ヒトの体に共生する微生物の総体)、オルガノイド(細胞を培養して作った臓器)の研究が世界的にも有名です。それに加え、大学病院の豊富な診療実績も強みです。医学部の起業文化との相乗効果で、上場を目指せるベンチャーが誕生しています」
慶大の強さは数字にも表れている。
経済産業省が毎年実施している「大学発ベンチャー実態等調査」(21年度)によると、大学別の企業数は国立大が上位を占めるが、慶大は前年度の10位から順位を伸ばし5位に入った。