――中田永一さんの作品からは、表題作となった「メアリー・スーを殺して」と「宗像くんと万年筆事件」の二作が収録。前者はコンプレックスを抱えた中学生の女の子を主人公にした成長譚、後者は学級裁判をモチーフにしたボーイミーツガールといった印象です。

安達:たとえば乙一が『ジャンプ』漫画のノベライズ作家なら、中田永一は『サンデー』のイメージ。コメディー要素が強い恋愛小説というか。いうなれば二人とも、大人になった今でも思春期男子の妄想を続けている作家ですね(笑)。ただ、この「メアリー・スーを殺して」に関しては、<いやだ! 小説を、うまくなりたい!>といった主人公の心の叫びに表れているように、作家としての成長物語といった側面が色濃く出ているのが興味深い。乙一の「愛すべき猿の日記」のラスト近くにも、<それでも書かずにはいられない>といった印象的なフレーズが出てきますが、両者には創作意識に関する点でシンパシーがあるのかもしれません。

―― 一方、“美しくも切ない怪談の名手”として、とりわけ書店員の皆さんから絶大な支持を集めている山白朝子さんの作品からは、「トランシーバー」と「ある印刷物の行方」の二作が選ばれています。

安達:これまでに刊行されてきた山白の作品は、どれも民俗的な昔話の匂いをたたえたものばかりでしたが、今回はあえて現代を舞台にしたものを選びました。結果として、私が彼女に期待している部分があらわになった気がします。特に「トランシーバー」を読んだときは、昔見た映画の中に出てきた、おもちゃの電話で死んだおばあちゃんと会話するという、大好きだったシーンを思い出しました。同時に、こんな幼稚な下ネタ連発のせりふ回しでホラー小説がまとめられるものなんだなあ、とすこし感心もしましたね(笑)。自分にも子供がいるのですが、言葉を覚え始めた頃特有の支離滅裂な会話の感じがよく出ているのではないかなと思います。

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