自分ひとりではここまでこられなかったからね。グアムに行く仲間や、チームメート、サポーター、メディアのおかげで自分のモチベーションは維持できている。大好きなサッカーで、ずっとお金をもらってきているわけだから、本当に感謝しています。サッカーがなきゃ僕には何もないからね」
カズは、一プレーヤーとして、いつもこんなふうに思っている。
「サッカー選手でいちばん大事なのは、サッカーの試合に出て活躍したいという、この気持ちです。僕はベテランとか最年長とか言われても、活躍するためにサッカーをやっているんで、別に若い選手に僕の背中を見せるためにやっているわけではないんです。たとえ高校を出たばかりの人が入ってきても、後輩とは思わない。もちろん上から目線もないし、単なるサッカーの仲間であり、ライバルとしか思っていない。30歳下だからって別に僕から強制するものなんてひとつもないんです。
とにかく今日が大事で、昨日は過ぎたこと。キャリアなんて関係ない。僕自身は自分が経験してきたことが大切なだけで。今日、いま、自分の力を見せるのが大切なことで、昨日は関係ないんです」
しかし一方で、カズには、プレーヤーとしてだけでなく、日本サッカー界の顔としての役割が期待されているのも事実だ。それはときに、「政治的な動き」をともなって、カズを取り囲んでくる。
たとえば、カズは、2012年、日本サッカー協会の要請でフットサルの日本代表に呼ばれ出場している。ブラジル時代に多少経験があるとはいえ、フィールドサッカーとは勝手の違うこの競技に参加せざるを得なかったのは、やはり「政治的」と言えなくもない。しかし、カズは参加を決断した。そして、実際、依頼者の思惑どおり、日本のフットサルは脚光を浴び、広く人々の知るところとなったのだ。
「客寄せパンダ的な利用のされ方をするのは嫌じゃないですか」とあえて意地悪く質問してみた。すると、カズはこう一笑に付した。
「J2でも、横浜FCでもよくそう言われるし、書かれているじゃないですか。でも、パンダじゃなきゃ人は来ないですから。その役割は自負していますよ。僕は客寄せパンダで十分ですよ。だって普通の熊じゃ客は来ないんだもの。パンダだから見に来るんだもの。熊はパンダになれないんだから」
30年にわたってプロの世界でトップに立ちつづけてきた男の矜持(きょうじ)である。
(文・一志治夫)
※アエラスタイルマガジン30号より抜粋