その自宅マンションには、リビング、書斎、寝室、トイレ、ところどころにピンクのうさぎのぬいぐるみが所狭しと置かれている。寝室の枕には茶色く変色したピンクのうさぎのそれが枕元に置かれている。サチコさんが見ていると彼が口を開いた。
「これはね、僕の子どもの頃からお友達、ピッピちゃんだよ。うちの母が縫ってくれたんだ。大学受験も公務員試験もピッピと一緒に頑張ったんだよ」
そして彼はピッピちゃんを抱き上げ、サチコさんに、「ピッピ、もしかしたらママになるかもしれないサチコさんだよ。ご挨拶は?」と宣う。その時の気持ちをサチコさんはこう話す。
「優しそうな彼に惹かれていました。でもピッピちゃんでドン引きしました……」
結局、この日の自宅デートを境にサチコさんは彼との交際に終止符を打ったという。
もっともお見合いを含め、男女の縁の多くは男性側が女性側が不快に思う何かをしでかしたから……というケースがほとんどかもしれない。前出のサチコさんの次のお見合い相手がそうだ。
「南青山で評判のイタリアンでディナーだったんです。もう口を開くのも嫌です」
大手商社で管理職をしているお見合い相手の彼(48)は、イタリアのブランドもののスーツをソツなく着こなすお洒落さん。だが、レストランでの振る舞いはそのお洒落ぶりを台無しにするにあまりあるものだった。ウエイトレスがオーダーを取りにやって来た後、彼は、「責任者を呼んでください」と告げた。やって来た責任者に彼はこう言った。