「そう。心引かれる人、ひとりを卒業されるまで応援するの。最近は、掛け持ちで応援される方もいると聞くけど……。多くは心引かれる方を見守るのがヅカファンなの」

――それがジェンヌやヅカファンが守らなければならないという「すみれコード」ですか?

「ううん。そういえばそうかも知れないけれど……。すみれコードというのは、どちらかといえば生徒さんたちのものかしら。人前で食事している場面をみせないとか、喫煙している場面をみせないとか、でしょ? わたしたちヅカファンの場合は強いていえばモラルかしら。夢を守るための“自主ルール”ね」

 その時、楽屋口付近から、「生徒さん出ま~すっ!」という声が聞こえる。楽屋口付近で“出待ち”しているファンたちが一斉に座る。ヅカファンたちが座るのは舞台人であるジェンヌと同じ目線だと失礼という説もあれば、座ることで大勢のファンがジェンヌの姿を見られるようにという配慮からだという説もある。

 ジェンヌが楽屋口を出る。ジェンヌの後ろには鞄を持つ人、ファンからの手紙を受け取る人が従っている。

「あの生徒さんの鞄を持つ人も、ファンからのお手紙を受け取る人も皆さんファンクラブの方なの。生徒さんのファンは、歌劇団とは関係ない自発的なもの。だからトラブルはご法度なのよ。ジェンヌを守り、ヅカファンが戸惑わないよう導くのが彼女たちなのよ」

 公演を終えた“生徒さん”と呼ばれるジェンヌが立ち去るのに合わせてファンクラブに属する女性たちが2列に並び、ジェンヌを先頭にどこかへ行く。

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