「私たち医療者側にとっても、患者さんの生活を24時間観察できるいい機会。自宅でのよりよい療養につなげられています」
一方、ホスピス・緩和ケアでは、在宅でさまざまな苦痛が出てきた場合に患者を受け入れ、投薬などで緩和する医療処置をしている。
同クリニックでは12年に、訪問診療をしている患者138人を対象にアンケートを実施(回収率50%)。「訪問診療医として同クリニックを選んだ理由」を聞いたところ、「入院設備があるから」という回答が約半数を占めていた。梅田医師が予想したとおり、患者や家族にとって、入院設備があることが大きな安心につながっていることがわかる。
病棟で最期を迎える患者も少なくない。子宮がんが転移したあと、梅田医師の訪問診療を受けてきた50代の女性は、亡くなる1カ月前に自ら希望して入院。在宅でも痛みのコントロールはできていたが、一人暮らしで、病状が進むにつれて生活面でできないことが増え、不安になったのが理由だ。
「自宅とまったく同じとはいかないまでも、個室にお気に入りの本や写真などをたくさん持ちこんで自由に過ごしていました。僕のことを『梅ちゃん』と呼んで、頼りにしてくれてね。病状が進行し、彼女が少しイラつくことはありましたが、医師や看護師がそばにいてすぐに対応してもらえることが彼女の安心感につながっていたようです」(梅田医師)
最期は海外から駆けつけた息子に見守られ、静かに旅立った。
「何が何でも最期まで在宅にこだわる必要はありません。方向転換したっていい。患者さんとご家族が望むような医療を提供し支援するのが、在宅にかかわるわれわれ医療者の役割だと考えています」
と梅田医師は話している。
(取材・文/熊谷わこ)
※週刊朝日MOOK「自宅で看取るいいお医者さん」より抜粋