セラピーを担当するのは、小柄なミニチュアポニーから大柄なサラブレッドまで計7頭。子どもの体格などに応じて、活用する馬の種類を選んでいる。

 特筆すべきは、うち2頭のサラブレッドがいずれも引退競走馬ということだ。実は、運営会社であるTCC Japan(TCC)は、行き場のない引退競走馬のセカンドキャリアを支援する活動も行っている。代表の山本高之さん(40)はこう話す。

「地元・栗東の資源を生かした社会的価値のある事業として、『馬と人の福祉』に実現性を感じたんです」

「馬のまち」として知られる栗東市には、約2千頭のサラブレッドが調教を受けるJRAのトレーニングセンターがある。競馬界では、人気競走馬がスターとして扱われる一方、引退競走馬の処遇は長らく、ブラックボックス化されてきた。

 農林水産省によると、ケガや成績不振などの理由で、競馬界から引退するサラブレッドは年間約6千頭にのぼる。繁殖用、乗用に転身する馬もいるが、行き場を失い、殺処分という形で最期を迎える馬も少なくない。しかし、山本さんは「殺処分」という言葉を使わず、あえて「行方不明」「廃用」といった表現を使用する。

「実際に行方がつかめないケースは多いですし、肉はドッグフードや動物園の肉食獣のエサになるなど、使い道もある。なにより、競馬関係者の人たちの心情を思うと、露骨な表現は使えません」

 現実を知る競馬関係者やファンのなかでは、引退馬の行方を追いかけるのはおろか、それを話題にすること自体、タブーとされてきた。だが山本さんは、「まずはみんなが興味や関心を持つことが、問題解決につながる」と考えている。(ライター・中道達也)

AERA 2020年3月23日号より抜粋