「あれだけのものがあるのに、どうして使われないのだという声も聞いている」
東京都の小池百合子知事が3月末、新型コロナウイルス感染症の軽症者などを一時的に受け入れる施設として、1年延期となった東京五輪・パラリンピックの選手村の施設活用案に言及した。
選手村は東京都中央区晴海地区にあり、約1万8千人を受け入れる予定となっている。大会後には選手村を改修するほか、50階建ての2棟も建設し、住宅や商業施設などに生まれ変わる。「晴海フラッグ」とも呼ばれ、住宅は分譲4145戸や賃貸なども含め計5632戸となる計画。晴海フラッグの計画を進めている事業者の一つ、三井不動産の広報担当者は、コロナ患者の受け入れの打診はないと話している。
選手村をコロナ感染者の受け入れ施設に活用する案について、住宅ジャーナリストの榊淳司さんはこう話す。
「感染者のなかから亡くなる方も出てくるのではと思います。事業を進める10社は嫌がるでしょう。内装など全部をつくり変えたとしても、亡くなった方が出たとわかってしまえば売りにくいでしょう」
不動産業界には「告知事項」という制度があり、亡くなった人が出てきたとなると顧客に知らせないといけない情報になるという。分譲や賃貸物件を買ったり、借りる人が、事前に知ったら買わなかったり、借りなかったりする情報を伝えるもの。
晴海フラッグのブランドイメージについて、榊さんは、選手村として活用されて金メダリストたちが出たとなれば良いイメージが残ると指摘。一方、コロナ患者向けに利用するとイメージ低下につながるだろうという。こうした事情が、関係者の間で施設のコロナ対策への活用にブレーキをかけているのだろうか。
コロナ感染者の軽症者などを一時的に受け入れる施設として選手村を活用する案はその後、聞こえてこなくなった。4月に入って、新たに出てきたのは、五輪パラ大会中の警備のため全国から集まってくる警察官などの宿舎として予定している都内数カ所の施設を活用する話だ。選手村に代わる施設として出てきたのではと、榊さんはみている。