アンチエイジングという言葉が一般的になってきた昨今。やたらに自分を若く見せようという風潮があると指摘するのは、帯津三敬病院の帯津良一名誉院長だ。『ピンピン、コロリ。』の著書もある氏は、老いについての持論をこう語る。
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そもそも老いは恥じることではないんですよ。若さに執着しすぎると、年をとることを必要以上に恐れたり嫌悪したりして、幸福から遠のくことにもなりかねません。
私が目指すホリスティック医学は、人間を全体でみるという医学なので、「生・老・病・死」の四つをワンセットとして考えます。生を謳歌しながら、老いを自覚し、病を得て、死の向こう側に飛び込む。そのプロセスをイメージしながら日々生きることで、充実した人生になるんです。
たしかに細胞分裂には限りがあるので、年をとると肉体は衰えます。でも若いときとは違うよさもある。そのことを皆、忘れがちなんですね。50歳を超えれば自己実現する時期に入り、そこでものをいうのは体力や内臓の強さではなく、あるがままの肉体と人格です。老境に向かえば命のエネルギーが高まり、生命力のレベルでいえば青春時代よりもすぐれた状態になります。
年をとるのも悪くない、自然体も色っぽいなと気づければ、男女問わず、鏡を見るのも楽しくなる。生き方や考え方が結果的にアンチエイジングにつながれば言うことないでしょう。
私自身、いま76歳。元気の秘訣はなんですか?とよく聞かれます。毎朝2時半に起きて、3時半に病院に行く。それから仕事を始めるのですが、毎晩6時半までに切り上げて晩酌します。一杯の美酒のために仕事もがんばれるし、飲めば「生」を実感できる。これも「心の養生」です。何でもいい。酒でも映画でも音楽でも、生きがいがなにかあれば免疫を高められるわけです。
※週刊朝日 2012年5月25日号