北朝鮮当局が所属部署を発表していないものの、与正氏は現在、労働党組織指導部の第1副部長とされている。この部署は労働党と軍部、内閣、国家保衛省、人民保安省(警察)などの幹部の人事権を握っている権力が集中する最も重要な部署だ。金正日(キム・ジョンイル)総書記は、死亡する時まで組職指導部長を兼ねていたほどだ。
筆者が北朝鮮在住の国民に電話取材したところ、「金一族である与正氏の権力継承に対して違和感がほとんどない。金一族の権力世襲は当然」とも話す。
しかし、一方で北朝鮮には封建的な考え方がまだ強く残っており、労働党幹部や軍部幹部らが、女性である与正氏が指導者になることに対し、反発する恐れもあるという。
「幹部たちが将来的にクーデターを図る可能性を排除することはできないが、長い間『金王朝』体制に慣れているだけに、兄の金正恩のポストを与正が引き継ぐことは仕方ないと考える可能性が高い。金一族の中に与正ほどの人物はいないからね」(韓国政府関係者)
しかし、金正恩氏には父、金正日総書記と母、高容姫夫人との間で生まれた実兄・正哲氏や李雪主夫人もいる。妹の与正氏への後継継承に納得するのだろうか。
「与正が後継に決まっても跡目争いはすぐには起きないだろう。まず長男の正哲はエリック・クラプトンの大ファンでギター演奏に夢中で、公には何の役職も持っていない。以前から政治向けではないとされ、父の金総書記は『彼は女の子みたい』と評価していたといわれる。次に李雪主夫人は、3人の子どもがいるが、いずれも10歳未満でまだ幼い。能力があり、それなりにカリスマ性を持つ与正に権力が移るのは自然な流れかもしれない」(同前)
また、与正氏の夫が現在、国のトップである最高人民会議常任委員長である崔竜海副委員長の次男であることも後継レースで有利とされている。
「実質的にナンバー2の崔副委員長が義父ならば、与正が首脳として国の顔になり、崔副委員長は実質的権限を持って統治するツートップ体制になる可能性もある」(同前)