世帯年収が1400万円に達すると「パワーカップル」と呼ばれる。こうしたダブルインカムがある世帯では、勤務先に近い都心や近郊の住まいが購入可能である。彼らの通勤の負担が軽減される都心近郊や湾岸エリアで供給されているタワーマンションは、その価格が8千万円前後。何とか購入可能な範囲内である。

 それゆえ、近年はその価格帯のタワマンが数多く市場に供給された。

 現在タワマンで暮らす住民全員が、好きこのんで殺伐とした風景の埋め立て地に住んでいるわけではないはずだ。できることなら自然豊かで、子育て環境に優れた場所に住みたいと思っている人も多いはずだ。湾岸のタワマンに住むのは、通勤のために「やむを得えない」と考えている人もいるだろう。

 コロナ禍で余儀なくされたテレワークによって、日々の通勤は絶対に必要なものではないとわかってしまった結果、再び郊外立地のマンションや一戸建ての人気が復活する可能性は十分にある。

 そうなれば、快適な居住のキーワードは「自然」と「環境」となる。

 ウイルスは人工的な「三密」の環境で伝染しやすいとされる。快適さを求めれば、それとは真逆の広々として、空気の清らかな場所に人々が向かい始めるのは必然だろう。

 タワマンという住形態そのものにも疑問の声が出始めるかもしれない。現時点ではまだ確認されていないが、タワマンがクラスター(集団感染)の発生源になる可能性は否定できない。その構造上、タワマンのエレベーターは三密状態になりやすい。特に高層階の住民は階段での昇降は不可能なので、利用時間が長くなる。また内廊下は空気の入れ替えがしづらく、ウイルスが滞留しやすい環境となってしまう。

 万が一、どこかのタワマンでクラスターが発生したことが報道されれば、世間にはたちまち「タワマンはウイルスに弱い」といった情報があふれだす。

 2019年の10月、台風19号がもたらした水害で川崎市にある2棟のタワマンが浸水被害に遭い、エレベーターが使用不能に追い込まれたことを思い出したい。

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コンパクト物件は「ストレス」に