落語に歴史があって、その伝統を落語家さんたちが受け継いできているのと一緒で、力道山関から始まった日本のプロレスもレスラーたちが受け継いできた。その70年の歴史が、今はこんな状況でかろうじて、ちろちろと燃えている状態。その火を消してなるものかと頑張っているレスラーたちの姿に俺は感激している! 後輩たちがプロレスというものに燃え上がっているのを見るのは嬉しいね。今のレスラーに対しては「お前ら頑張ってくれてありがとう!」っていうのが正直な気持ちだ。

 11月15日に天龍プロジェクトの大会を予定しているけど、そういう感謝が出るようなイベントになるんじゃないかな。天龍プロジェクトは小さな所帯だけど、俺や代表(娘の嶋田紋奈さん)をはじめ、スタッフもみんなレスラーやファンに支えられているという思いが強い。詳細はまだ言えないけど、プロレスにワクワクしてもらう、楽しく生きよう、頑張ろう、そういう活力になってもらえるイベントにしようと準備しているところなんだ。

 え? 俺がまたプロレスをしたいかって? 全然! 全く思わない! 引退を決意してからもあれだけ体を痛めつけて、だましだまし何カ月もやってきた自分の気持ちを裏切るようなことはしたくない。選手としては完全燃焼だよ。今はプロレスを見ながら「ああでもない、こうでもない」と言っているのが気楽でいいね。よく野球や相撲でも「現役を辞めた人は一段も二段も技術が上がる」と言われていてね、俺も今はそういう状況。なぜかというと、他の試合を画面を通して何回も見ているうちに目が肥えてきて、技量が上がったという錯覚が起きるんだ。いろいろなスポーツで解説をやっている人はそうなるんだって。

 じゃあ、今の技術で現役時代に戻ったらもっとすごいプロレスができたかって? 天龍源一郎は天龍源一郎のプロレスしかできないから、結局変わらないんじゃないかな。それにまたやるとか言い出したら、女房と娘が絶対に反対するから! ファンからの復帰を望むコメントも二人で隠して俺の目に入らないようにしているんじゃないか(笑)。

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苦しくても「誰かがどこかで見てくれている」